十二国記「白銀の墟 玄の月」を読んで
まず、今日
アニメ「十二国記」でも驍宗の声を担当されていた声優、藤原啓治さんの訃報がありました。
驍宗役以外にも、好きな役がたくさんありました。
あまりにも早く、とても悲しいです。
ご冥福をお祈りいたします。
そして、約一年ぶりに更新するブログがまさかの読書感想文という空気の読まなさでありますが
18年ぶりに刊行された小野不由美さん著「十二国記シリーズ」の最新作であります
「白銀の墟 玄の月」
について、感想と考察をつらつらと書いて参りたいと思います。
超絶ネタバレを含みます。
まだ読了されていない方、お引き取り願います。
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さて。
まず、前作の短編集「丕緒の鳥」でも思ったことでしたが
レーベルが変わって作風がだいぶ変わりました。
ホワイトハート文庫の時はいうなれば異世界転生ラノベだったのが、
表紙も挿絵もない講談社文庫の新装版で読者層の拡大をはかり
新潮版で間をとった、という感じでしょうか。
エンタメ性を抑え、リアルな異国戦史としての面が強い新作長編でした。
正直、もっと驍宗と泰麒の絡みが読みたかったし
有史以来前例のない「諸国の協力のもと行われる朝の奪還作戦」は多くの読者が望んだクライマックスシーンだったはずです。
戴に、延・奏・景・漣・範etc..が集結し阿選を倒す、阿選は追い詰められとんでもなくみっともない醜態を晒し成敗されるーーーーーーーー
しかしそのシーンは一切描かず、戴史乍史でまとめてしまうあたり
もう十二国記の最終長編は完全にエンタメとしての側面を捨てたのだと思わざるをえませんでした。
だからキャラ読みもできないし、キャラの扱いがリアルすぎる。
山田章博さんの挿絵がなかったらたぶん読めなかったYO。
そして今まで続いてきた「十二国記=王と麒麟のバディもの」という作品の主軸が、今回は完全に戴の市井の人々の話になっています。
これは「丕緒の鳥」の流れを汲んでいるのでしょうかね。
この作品は「戴の民」が主人公なので、驍宗の影が薄すぎる上に待望の登場の後も捕まって逃げて捕まって処刑されるのを待つだけという、、、
(まぁこの点については後でも書きますが)
その辺がやはり「私が求めていた十二国記じゃない!」感を呼び起こしているのだと思います。
ファンは今回の新作に挑むにあたり過去作全部読み返してるでしょうしね。
もちろん私もです。
まぁまず18年も間をあけてしまったことから、ある程度予想はできたことでしたが
やはりそこは残念でした。
それでも、私は「白銀の墟 玄の月」を読み終えてからこの作品のことを考えずにはいられません。
明かされなかった謎、描かれなかったことが多すぎて
この世界のことを考えるのを止められません。
ちょっと不満に思う点も含め列挙していきたいと思います。
・宗教事情と地理説明が難しすぎる
・戴の国事情
・泰麒の王宮での戦い
・驍宗それでいいんか?問題
・阿選は強大な悪ではなかったのか問題
・妖魔使いすぎ問題
・琅燦は何がしたいん問題
・今までの十二国記シリーズになかったミステリー感
・高里要&戴麒という人物の運命
・角いつ治った問題
・驍宗の麾下の中にいる裏切り者問題
・今までのシリーズで積み上げて来たものをあえてぶっ壊す小野主上
・宗教事情と地理説明が難しすぎる
寺や宗派の名詞と地理名・山の名前がちょっと複数でややこしかったですね。。
これは戦記・戦史としては重要だと思うのでエンタメを期待して読み始めた脳には難問でした。頭の中に地図を叩き込んで、信長の野望みたいな画面を頭に投影する必要がありますね。
前作ですでに鉱山の中で何かが起きた事や戴が玉の産地であり鉱山が重要なキーになってくることは示唆されていたので、私の心の準備不足でした。
・戴の国事情
前作で李斎が腕を失ったのも妖魔の大軍に襲われたから、という事でした。
国が傾き妖魔が跳梁跋扈し荒民が雁に死に物狂いでたどり着く、もうそれは凄まじい荒れ具合である、という噂でしたが
あ、結構民生活できてるんですね、妖魔もそんないないんですねという印象を受けてしまいました。
妖魔に襲われるシーンもありましたがそれは阿選の差し金でしょうし、、、
「ただ単に偽王が起ったというだけでそこまでは荒れるまい」という戴の荒廃感は妖魔の、というより阿選による行きすぎた誅伐のことだったのでしょうかね。
・泰麒の王宮での戦い
これは面白かったですね。
阿選の麾下であっても阿選に疑問を抱く者、台輔に忠義をなすものはいるわけで
妖魔を使う阿選と麒麟パワーを持つ泰麒が王宮内でチェスしてるみたいでした。
最後の最後に恵棟というルーク的な、、駒を取られてしまった時はもう
でしたが。。
・驍宗それでいいんか?問題
騶虞を捕まえて自力で出て来たところまではさすが王様、さすが驍宗様と言わざるを得ませんでしたが
地上に出てからの驍宗があまりいいとこなしなのが残念でございました。。
王がなんで州師に捕まっちゃうのでしょう。
「新王阿選」という触れがあった事は確かだけど、驍宗が死なずに新王はありえないことは周知の事実ですし、兵も7年前には忠誠を誓っていたわけですし
兵卒、という立場に生きる者の性というのは四巻の終盤390頁で描かれていますが、なんかそこは兵が阿選の言いなりになって驍宗に害をなそうとしていたことのこじつけに感じてしまいました。兵卒は命令の是非を考える立場にない、というやつ。
だって、それ以前のシリーズでいかに王が絶対的な存在であるか、というのが描かれているわけですから。。。
ただの民には王の体を傷つけることだってできないし
王の命なく禁軍も動かせないし
阿選と驍宗、二人とも似たような経歴と人柄で共に部下も多く慕われている、そんな阿選の命令だったから、にしても
驍宗は一度正式に即位してるんやで????
今までの十二国記シリーズ読んでる者としてはそこも疑問に感じたと思います。
顔も見たことのない、蓬莱から来た新王を信じるには延の後ろ盾が必要だった、という景の事情ではなく
一度国を治めていたけど行方不明になった王なんですからね。。。
驍宗の姿を見ただけで「うわーー!王様やん!帰ってきたん?!わいら間違えとった!阿選討たなーー!!」ってならないもん?
それとは別ですが、捕まるシーンの驍宗について
このシーンは、恐らく驍宗人生初の「挫折」だったのかなと思います。
今まで、苛烈で、延にだって時間さえあれば後れは取らないと言い切る自信家と描かれてきた驍宗。
しかし阿選の策にはまり丸7年玉座を空けた結果訪れた多くの民の死と国の荒廃、きっと驍宗は自分のせいだと感じたことでしょう。
自分が出した結果だと思ったことと想像します。しかし根が自信家だから逃げて他国に力を借りることもできない、目の前でどんどん部下死ぬ、文州師に囲まれた際の驍宗の心情は恐らくーー諦め。
しかし、処刑される寸前、ああまでして自分のもとに駆けつけた泰麒の姿を見て奮起した。
と、自分は推察しています。
結果、驍宗は丸くなり、泰麒は用心深さと非情さを持ち合わせー
巻末イラスト、戴は途方もなく繁栄したよ、そんな未来だったらいいなと思います。
・阿選は強大な悪ではなかったのか問題
これね。
個人的には幻術を使い、王から玉座を簒奪し幼い泰麒を脳天から切った残虐性もあり姑息で計算高い途方もなく強大な悪役、だと思っていたのですが
実際は驍宗に嫉妬していて琅燦にあれこれ吹き込まれたのを簒奪を唆されていると勘違いして後先考えずに実行しちゃったけどそこまで確固たる意志を持って行動したわけじゃないから燃え尽き症候群になって引きこもっちゃった・・・というなんとも小物な悪役でした。
まぁけど驍宗を自分の手にかけようとせず民に殺させようとしたのは小物らしいナイスアイディアだと思いました。
自分の手を汚したがらない、小物にはありがちだと思います。
だから最期が描かれなかったのでしょうか。。
こやつの最期なぞ史書の一文でよし、的な。。。
・妖魔使いすぎ問題
そんな簡単に賓満憑けたり外したりできるん??!!対価は???!!!!
しかも賓満複数使役してるよね???!!!!
お前は景麒か!
・琅燦は何がしたいん問題
もうこれはワケワカメでございます。
耶利の主公は琅燦ではない、と思っていたのですが、何度読んでもやっぱり琅燦なんだろうなと思うのです。
でもそうすると雲海を見下ろす部屋でのやり取りと実際やってることの辻褄が合わなさすぎる。
妖魔を使役する方法は教えただけで実行していたわけではない、阿選にはもしも、の話をしただけで簒奪を唆したわけではないにしろ
有能な官吏がどんどん傀儡になって朝ももうめっちゃくちゃじゃないですか。
そこ気にならないのは黄朱だから?
驍宗と泰麒さえ戻ればよい?
今までの十二国記シリーズでは
責任は自ら求めなくても突然発生し、それを放棄したものには罰が与えられる、という思想が常に世界にありました。
王が政をしなければ麒麟は失道する。
王になんかなりたくなかった景の予王は景麒を失道させ禅譲し生を終えた。
祥瓊が王宮を追われた罪は、公主という立場で知らなければならない事を知ろうとしなかった事。
王が道を失えば、周りの者には諫言する責任が生じる。
冬官長を解任されたとはいえ、妖魔の巣窟になるほど荒廃した王宮を放置しといてこの人の立場としてやるべき仕事があったのでは??
玄菅としての働きがあったとしても
私は琅燦を許さない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
雲海を見下ろす部屋での耶利とのやりとりは玄菅としての琅燦
阿選の部屋でごろごろしてるのは黄朱としての琅燦
なんか、この人は黄朱でありながら王に仕えるという環境に身を置いてしまったせいで
解離性障害とかになっちゃったのかな?と思わざるを得ません。
黄朱だから国とか王とかあんま興味ないけど、天の意志は存在するのか、壮大な社会実験したい、でも元冬官長としての責任感が若干残ってる、という葛藤の末二重人格になっちゃったのかな???
・琅燦二重人格説
・逆に琅燦になんか妖魔か神かなんかが取り憑いてる説
とかでもないと許せん
だいたい牙門観で大量の工匠たちが亡くなってるの元冬官長としていいわけ???
って感じです。
ワケワカメー
玄菅としての功績があったとしても
こういう人を選んだ任命責任が驍宗にはあるのではないかと思います。
・今までの十二国記シリーズになかったミステリー感
今作最大の謎「驍宗に何があったのか」
頑なに口を割ろうとしない荒民相手に、聞き込み調査していく過程は読んでて面白かったです。
・高里要&泰麒という人物
黒麒麟はとても珍しくて誕生した時には世界に慶事があると伝説で言われていますが
彼が誕生したり帰還する度に実際起こっているのは弔事です。
もともとこの人は別のホラー小説の主人公になってしまうほど
「死という病」を抱えてる人物でした。
風の海 迷宮の岸で泰麒が「・・・ぼくは病気の麒麟なんです」って驍宗に言っているのですが
これってもう白銀の伏線だったのかなーと思います。
自らの手で殺傷という罪を犯した泰麒は生涯にわたって穢瘁の病を負う。
黒は慶事に用いる十二国の泰麒と、黒は弔事の象徴である蓬莱の高里要。
彼が常に「並の麒麟ではない」そう言われ続けていた意味がわかった気がしました。
彼は死と共に存在し続ける麒麟なのでしょう。
魔性の子のシーンを受け継いで、彼が一瞬高里要に戻る(戻っているように感じる)シーンがあったり
魔性の子から始まった「高里要&泰麒という人物が背負っている運命の物語」はやっと描かれきって、完結したのだと
この人はこれからも
死という病を抱えて生きる唯一無二の麒麟になったのだな。。と感じました。
なんかすとんと納得しました。
風の万里で景麒の使令が自国の民を殺しまくったり黄昏の岸で延麒の使令が他国の官吏を殺したり
王のため、であれば結構麒麟も間接的に人を殺します。
泰麒がそのことを考えるシーンがありますが
確かに、これまで一貫して描かれてきた「麒麟は仁の生き物」設定からは外れるのではと疑問を感じましたね。
王のため、を掲げてはいるけど
実際自分の手を汚して罪を背負うことなく
自分は清廉潔白なまま人殺しをしている。。。とも考えられます。
ならば自分の手で犯すこととなんら変わりはない、と泰麒は実行しますが
ここで阿選との対比がはっきりして良かったなーと思います。
自分の手は一切汚さず罪なき民に王を殺させようとした阿選と
王と、ひいては民を守るために自らの手を汚す決意をした泰麒
民を守るために欺瞞を働いた泰麒と
自分を守るために欺瞞を働いた阿選
これは泰麒と阿選のチェスは最終局面、キングとキングだけになって討ち合った感があってよかった。
・角いつ治った問題
これはもう読み手によるかなーーー!!!
というところですね。
阿選に斬られた後の「・・・・よく辛抱してくれました」これは誰に言ったのかってところがミステリーですね。
・すでに角治ってて使令に言った説
・項梁に言った説
泰麒の最大の奸計は、「新王阿選」ではなく「自分は病が治っていない」だったのでは?
というミステリーが生まれます。
ただ角が治ってたら、驍宗を探すのに苦労はしないはずなんですよね。
白銀の一〜三巻の意味。。。ってなってしまうので
私は、驍宗と見つめあった瞬間に角治ってにょきにょき!と生えて麒麟としての性を全て取り戻した説を唱えます。
角も半治りみたいな感じだったから阿選に叩頭できたのかなぁ。
・驍宗の麾下の中にいる裏切り者問題
黄昏の岸で示唆された問題です。
李斎が白雉を地中に埋めたのを見て逃げた二声氏を保護し、阿選謀反の知らせを送ったのは芭墨と霜元だけ、この二人は滅多な人にはそのことを漏らさないはずが漏れていた、
ということですがこの裏切り者が琅燦だった、ということなのでしょうか。
驍宗も琅燦が寝返った、とつぶやいてますが
じゃ玄菅の「李斎には生きていてもらわねば」というのは・・・???
・今までのシリーズで積み上げて来たものをあえてぶっ壊す小野主上
白銀の大事件、クライマックスというのはやっぱり
麒麟が王のため自らの手で殺傷をする、という件だと思います。
これをしないと泰麒の異常性が差別化できない=このために、28年間「麒麟は仁の生き物」設定を丹念に描いてきたのか・・・?
と思った所存です。
そしてもう一つ
陽子が黄昏の岸でも「天も間違いを犯すことがあるのでは」と語っていますが
琅燦が天に対して謀りごとをする、というのも大事件ではないかと思います。
なんか十二国の人々は天というものを盲信し 天意なら仕方ない、と謎の恭順を見せている節がありましたが
その天に対して、こうなら天はどう出る?と計りごとをしたのは琅燦が初めてなのではなと
さらに言えば、黄朱が王宮で官吏にならなければそういう好奇心を持っても実行することは不可能なので
驍宗が王になって琅燦を朝に迎えたのは天にとっても想定外のはずです。
ということは、天にとって驍宗を戴王に選んだのは間違いだったのではないでしょうか?
最初から阿選を選んでいれば琅燦が朝に迎えられることもなく
王が存命ながら玉座が空白になるような混乱は起きなかったわけで
今まで、絶対的に正しいと思われてきた天が犯した
壮大な「天の間違い」が描かれているのかなと
(その後驍宗は泰麒と安定した治世を布いたようなので泰麒が生涯にわたる病を得るかわりに間違いは正されたわけですが)
28年間も何冊もこの十二国と十二国を支配する絶対的な存在「天」を描いて
それが破綻するルール外の出来事とその顛末、を最初から最後に描くつもりだったのかなと。。。
この
こんなの十二国記じゃない!とファンに言わせるために
十二国記を描いていたのかと。。。。。
『・・・さすがに穿ちすぎです』(by泰麒)
ですかね?笑
と、なんか白銀以降もう長編は出ないような語り口になってしまいましたが
これ以降続編はでるのでしょうか?
短編集の噂は聞いておりますが
というかまだ未登場な国(舜、柳)とか
どうやら芳麒が蓬山にいないらしい問題、とか
範の美しすぎる王様と尚隆の喧嘩見たい、とか
驍宗が白桂宮を取り戻す際に来た奏の援軍は利広が率いてるよね??!とか
その後長い治世を布くなかで驍宗と泰麒が喧嘩しちゃうことが一度だけあって、仲直りするまで、とか
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁ見たいものがありすぎるううううううぅっぅうっぅっぅぅうぅぅぅぅ
というわけでこれ以上は小野主上に迷惑になるので控えますが
短編集2冊くらいと
月の影くらいの長編もう一つくらい
読めたら人生に悔いないですね。。。
もう、リアルな戦記はこれ以上十二国記に必要ないと思うので
ってなってるファンに
ライトなキャラ読みできるような生き餌を。。。どうかお与えくだされますよう。。。
しかし小野主上のお身体の具合があまり良くないと伺っているので
どうか公もご健勝あられますよう。。。。。
祈りつつ。
文句とかすごい言っちゃったけど
なんだかんだ
十二国記が好き。
この世界に出会ったのは私が11才くらいの時だけど
それからずっとこの世界が胸の中にあった
胸の中に異国をしまって
辛い時は時々この国を旅して
幸せの感じ方や
責任を全うすることの尊さや
困難との向き合い方を教えてもらってきた。
18年かかっても
戴と泰麒の物語を完結させてくださった小野主上にまずは感謝です。
短編集楽しみ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!